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医学生インターンが聞く! 医者になる前に知っておきたい法律の話

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8月某日。UrDoc法律顧問の鈴木孝昭弁護士(弁護士法人AIT医療総合法律事務所)、野崎智己弁護士(10月1日より同)、UrDoc代表の唐橋による鼎談が行われた後、続けてUrDocインターンによるインタビューが行われました。インタビュアーを務めたのは島根大学医学部に在学中の新田凌也さん。医学生の視点から、医療訴訟について、医者の起業について等々、鈴木・野崎両弁護士にお話をうかがいました。鼎談記事の「番外編」として、この時の模様をお届けします!

 

もしも医療訴訟に巻き込まれたら

 

——はじめまして。島根大学医学部5年の新田凌也です。本日はよろしくお願いします!

鈴木・野崎:よろしくお願いします。

——さっそく質問させていただきます。過誤にしろ過失にしろ、もし医師として医療訴訟に巻き込まれた時、まずはどう動けばいいのでしょうか? 最近医療訴訟の意見書を書いた先生のお話を聞くことがあり、案外身近にあるものだなと感じています。

鈴木:日本では、医療機関やお医者さんは何かあってから弁護士に依頼するという文化になってしまっていますね。実はそれ自体が問題なんです。

たいていの医療訴訟って、よほどのことがない限り、事実を主張して証拠を出して、文献を出して、とどのような弁護士でもやるべきことは同じで、そこまで大きな差はないものと思います。

違いがあるとすれば、弁護士の医療知識や医療現場での勤務の経験等によって、事件処理のスピードや医療機関側とのコミュニケーションのスムーズさに差は出ますね。

ただ、あまり医療に詳しくない弁護士さんでも、十分に時間をとって前提知識を調べたり、医療現場に足を運んで医療関係者からヒアリングをしっかり行えば、医療に詳しい弁護士とそこまで大きな差はないと思います。

 

鈴木:ただ、その時間が長くなれば長くなるほど、依頼者の金銭的・時間的負担が重くなります。この点を除けば、その訴訟の結論に関してはそれほど喧々諤々(けんけんがくがく)の議論にはならないものではないかと思っております。

弁護士によってもっとも差が出る部分は、医療機関側の医療安全(=医療訴訟予防)、すなわち、事前予防の部分でしょうか。

訴訟になってからどうしよう、ではなく、そのような事態に至らないためにどうするべきかについて、いつでもすぐに弁護士に相談できる体制があるか否かが大切です。これは、院長のみならず、すべての医療関係者が直接弁護士とやりとりができていることが重要です。この点によって、大きく違ってきます。

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(左)野崎弁護士(右)鈴木弁護士

——まず医療機関や医師の姿勢が変わる必要がある、ということですね。

鈴木:本来は、事故が起こらないように普段から弁護士とコミュニケーションをとることが必要かつ重要なんです。私自身も医師としてそのような弁護士がいてほしかったので、そのニーズに対応するよう日常的に心がけています。

マスコミでは、目を覆いたくなるような医療機関の不祥事が日々取り上げられています。日常的に、弁護士と密にコミュニケーションできていれば、かなりの医療事故は防げたと思います。

医療安全は患者さんのためのみならず、医療機関のためでもあります。だから医療安全=医療訴訟予防なのです。

ただ、現実には、事故の起きないシステムを作ることが大事なのに、それができていない医療機関が相当数あるものと考えられます。これは、弁護士が医療の現場に足を運ぶ文化がないことと、医療機関の側に弁護士と積極的にコミュニケーションをとる文化がないことが主因と考えられます。

 

医療の言語と訴訟の言語

 

鈴木:弁護士にも問題があります。医療の中身のことがわからないのでは、現場に深く関わっていくことができませんね。

裁判になった場合でも、お医者さんにもらった意見書を理解せずに引用して裁判所に提出しているようでは、裁判官に何か質問されても答えられません。

例えば、敗血症ってわかりますか?

——血の中で菌が増えることに対する炎症ですよね。

鈴木:敗血症と癌の違いはわかりますか?

——えー、敗血症は症状で、癌は病名です。敗血症はきちんと抗菌薬を処方すれば緩解しますよね。癌は手術療法や化学療法が効けば緩解しますけど、敗血症と違って患者さんの自身の力で良くなったり、といったことはなく、一方向に進行する......という違いでしょうか?

鈴木:よく勉強していますね。ただ、そのきちんとが難しいのですけどね…。

あまり難しいことは触れませんが、私のところには医療訴訟に関連するいろいろな相談が集まってきます。詳しいことへの言及は避けますが、たとえば、治療によって敗血症は増悪したり緩解したりするもので、抗生物質を投与して経過をみる等が一般的であり、手術はできませんから最後まで投薬治療をするしかありません。 

他方、器質的な癌であれば、化学療法や放射線、手術等が選択肢に上がってきます。そして、その選択肢は、進行度によって狭まってきてしまいます。

当たり前すぎることを言っていますが、敗血症を癌のように治療すべきだ、と言ったりする弁護士さんも残念ながらいらっしゃると聞いたことがあります。たしかに、いずれにも診断基準等の指針が存在しますが、性質が全く異なるということは知らないでは済まされません。

でも残念ながら、そういった弁護士が医療訴訟を扱っているらしいという現実もあるようです。しかも、あまりきちんと勉強しないで扱っているようです。

私は医療と訴訟はなじまないと思っています。裁判に行ったら、前提知識から裁判官に理解してもらうための作業から始まります。また、医療の専門知識や経験がない裁判官が通常なので、わかりやすく理解してもらう必要があります。

医療関係者が自分の知識や経験でトップスピードで話をしたら裁判官は理解できずに、医療機関側に不利になってしまう判決を書くことだってあり得ます。

——うーん...。それは困りますよね。

鈴木:自分は日本語で話したいのに、裁判官はスペイン語で、相手弁護士は韓国語で話しているようなものです。だとすれば、裁判所にいたる前に解決がつくような体制を作っておかないと、お医者さんは自分の身を守れないですよね。

 

医師にも必要とされる法律の感覚 

 

——逆に考えれば、私も法律の知識はほとんどないです。

鈴木:ですから医療と法律の両方で活動する私としては、医療のことがわかる弁護士を育てること、同時に、医療関係者には法律の感覚を身につけてもらうことが、自分の仕事だと思っています。 

野崎:本当は医学部の段階で、将来必要になる法律のことも勉強できるといいですよね。今そういう授業はありますか?

——法律の授業はないですね。

野崎:カルテの書き方は習いますか?

——授業としてはなくて、実地で上の先生方から教えてもらいます。

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野崎:われわれ弁護士は、メールや書面の内容には特に気をつけます。それが後に証拠として使用され、自分にとって不利益になる可能性を常に考えるからです。そのため、メールや書面は、ちょっとしたメモや内部記録であっても非常に慎重になります。

鈴木:カルテに曖昧なことが書いてあると、患者さんは疑心暗鬼になってしまうんですね。自分は欺かれているのかもしれない、と。それで訴えてしまうことがあります。

野崎:例えばカルテに「〇〇かな?」と病名が書かれていたら、訴える側としてはその時点で病気の発症を認識していた、と考えますね。仮に、それが複数の可能性のうちあくまで1つの可能性にすぎないもので、メモ書き程度に記載したものであってもです。

鈴木:逆に弁護士としてカルテを見た時に、これは訴えるスキがない書き方をしているなと思うこともあります。

——なるほど...。そういう視点でカルテを書いたことはなかったです。

 

医師が起業するならどのタイミング?

 

——最近、医師や医学生の起業が増えています。私もゆくゆくは起業したいと考えています。これから起業しようとする医師や医学生にアドバイスがあれば、お聞かせください。

野崎:お医者さんは医療のことはわかっているけれど、経営や法律に関しては一般人として勝負しなくてはいけませんね。その意味では先ほどの話のように、日頃から経営や法律に目配せしておくといいと思います。

ただ、現場を知らずにすぐに起業というのは難しいかもしれません。私の周囲の方々を見ても、現場の苦しみや関係者のニーズを知って、それを解決したくて起業するという方が多いです。

そんなふうに、現場の課題に向きあう手段として起業を考えるのがいいのではないでしょうか。サービスを作る局面、運用する局面では、現場のニーズを知らないと細部を詰められないですからね。また、そのほうがサービス・コンテンツとして説得力がありますし、結果として資金調達もしやすいと思います。

鈴木:唐橋先生がユアドクを立ち上げたのは、医者になって何年目ですか?

唐橋:6年目でした。鈴木先生も医師を続けながら司法試験を受験されましたね。何年目でしたか?

鈴木:私はたしか8年目でした。司法試験を真剣に考えたのが5年目で、診療をしながら司法試験の準備をしました。

今は医師研修を終えてすぐに法科大学院に行く人もいますが、やはり最低でも研修医+αで4、5年くらいは医者として集中するべきではないでしょうか。医者としてある程度できるようになるには、少なくとも4、5年、メジャーな科なら10年はかかります。もちろん、それでもずっとその道でやっている医師にはかないませんが、4、5年はやらないとなかなか医療の現場のことも理解できないのではないかと考えられます。

唐橋:臨床医としては、特殊な症例は別として、ひと通りはできないと一人前とは認めてもらえないですね。私はヘルステックの領域で事業を起こしましたが、医者としてある程度の経験があるからこそ耳を傾けてもらえる場面は、確かに多いです。

——しっかりと現場に出て本当のニーズを肌で感じることが大事なんですね。お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

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お土産として、鈴木弁護士も寄稿したという本をいただきました!

(了) 

 

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